東京地方裁判所 昭和44年(刑わ)228号 判決 1969年12月05日
本籍 ○○県○○郡○○○町○○第○○地割○○番の○番地
住居 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 ○○荘○号
東北大学学生 R
昭和一九年六月二八日生
右被告人に対する兇器準備集合被告事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
1 被告人を懲役八月に処する。
2 未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。
3 ただし、この裁判確定の日から二年間、右刑の執行を猶予する。
理由
(認定事実)
昭和四四年一月一〇日、二百数十名の学生らが、東京都港区北青山二丁目にある国立秩父宮ラグビー場で開催された東京大学主催の七学部集会を実力で妨害するため、警備の警察官および集会参加者に対し共同して殴打、投石などの暴行を加える目的をもって、それぞれ樫棒、鉄パイプ、角材、石塊などを携えて、同日午後一時二〇分ごろ同都渋谷区千駄ヶ谷一丁目国鉄千駄ヶ谷駅前に集ったうえ、隊列を組みながら前記集会場に向って行進し、同一時四〇分ごろ同都新宿区霞ヶ岳一三番地神宮第二球場横路上にいたった際、被告人は、樫棒および細長い棒様の物を所持して右学生らの集団に加わり、もって他人の身体に対し共同して害を加える目的で兇器を準備して集合したものである。
(証拠)≪省略≫
(法令の適用)
被告人の行為は、刑法二〇八条の二・一項にあたる(懲役刑を選択)。同法二一条(主文2)。同法二五条一項(主文3)。刑訴一八一条一項但書(訴訟費用は負担させない)。
被告人の行為は、それがどのような状況認識、意図、心情ないし信念にもとづくものであったにしても(被告人は、当裁判所の再三の呼び掛けにもかかわらず、法廷で率直にこれを吐露する機会をついにみずから放棄してしまったのであるが)、違法なものであることが明らかであり、被告人の責任を決して軽く見ることはできない。
しかしながら、なんといっても幸いなことに、機動隊により早期の規制がなされ、被告人もまったく無抵抗で逮捕されていて、その行動は実質的にはいわば予備の段階で終ってしまい、すこしも重大な結果をひき起こすことがなかった。
審判拒否のあやまった態度は、もとよりきびしく責めなければならないが、これも今日ではかならずしも被告人の真意にもとづくものとは認められず、被告人の心の奥底には、やがて、本件のような行動のもちうる意味についての反省が深まり、将来の生き方についての決意が生れるものと期待される。なお、被告人の未決勾留も四ヶ月に及んでいる。
そこで、その他諸般の情状をも考慮し、本件にかぎり、特に、被告人に対して刑の執行を猶予することにした。
(裁判長裁判官 戸田弘 裁判官 米澤敏雄 裁判官 堀籠幸男)